インド亜大陸の一番南、アラビア海に面した側、つまり西側がケーララ州です。ケー
ララというのは、土地の言葉で「ヤシの国」という意味だと聞きました。
ここで観光の目玉の一つがバックウォーター・ツアーです。海からちょっと陸に入っ
た湖を船でゆったり、ゆったり巡ります。竹で編んだ屋根のついた木造船は、籐の椅
子が20脚並べられるほどの大きさで、舳先と艫に一人ずついる船頭さんが、竹の竿
で操ります。
この湖はとても大きくて、入り組んだ形をしていて、でも、広い広いインド亜大陸
では小さくて、インド全体の地図にはのっていません。町からは離れているので、ガ
イドブックのコーチンの地図にものっていません。実は、船に乗ってしばらくたつま
で、広い川なのだと思っていました。案内役の青年に、この川はどちらに流れている
のか聞いて、初めて湖だと知ったわけです。名前を聞きそびれました。
水面には、ホテイアオイがいっぱい浮かんでいます。紫色の花が咲き乱れている群
落もありました。広い湖で育っているせいか、日本で知っているホテイアオイよりも
大きいようです。岸に近いところには、スイレンやハスもたくさん咲いています。案
内役の青年は子どもの頃、スイレンの花を茎ごと引き抜いて、茎に切り目を入れて鎖
のようにしたネックレスをつくって遊んだと言いながら、実演してくれました。彼は
ヤシの葉っぱのブレスレットや風車もつくってくれました。
ゆったり進む船からは、植物たちがよく見えます。風の音と、竿の水音と、鳥の声
を聞きながら、今年の夏はガーデニングでも水生植物がずいぶん注目されていたこと
を考えました。水辺の風景は、心がなごむだけでなく、生命の豊かさのようなものも
感じさせてくれるのだと思いました。植物が生長し、水中の微生物を食べる魚がいて、
その魚を食べる動物がいて、それらはみんな水なしには生きていけないのです。
背の高いシペラスといった親しみのある植物のほか、細長い葉を水面に垂らすパイナッ
プルの仲間や、ごつごつした不思議な実(食べられないそうです)をつけた植物や、海
水の入ってくる場所ではマングローブもありました。熱帯の照りつける太陽の下で、
何もかもが濃緑色の葉を茂らせています。それでも、この岸辺は人が住み、人の手が
入っている農村地帯なのでした。
ここのホテイアオイやスイレン、ハスは自生しているものらしく、水辺の農村にひっ
そりと彩りを添えているような風情でした。