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HANA見てある記    by 宇佐木やよい




第二十七回 「絨毯に咲く花」 2004/05/28

 人それぞれ、こだわりのあるもの、特別な思い入れのあるものがあります。
 私は、美しい絨毯、はっきり言えば絹の絨毯が大好きです。こういうことは、他人
にわかるように理由を説明することは不可能なわけで、ただ、ただ好きなのです。

 初めてそれと意識して見たのは、パリの競売場でのことでした。100年ほどたって
いる萌葱色の絹の絨毯で、草花の模様も穏やかな色合いでした。特別なものではなく、
上等な絨毯というだけ、そうしたごく普通の生活用品を扱う競売でのことです。

 光線の具合で色が変わる絨毯の、それまでに見たことのない美しさに心を奪われま
した。天然染料、日本風にいうと草木染めの絹の絨毯は、踏むほどに風合いがよくな
り、美しくなるそうです。その風合いは、決して合成染料では出ない。蚕が我が身を
くるむために吐き出す糸、その天然繊維に、植物に含まれる色を染め付け、手仕事で
織り上げる絨毯は、どんなブランド品より贅沢なものに思えます。

 絨毯の産地として知られる国々は、中央アジアから中東にわたり、多くがイスラム
圏です。草花をモチーフにしているのは、イスラムとの関わりもあるようです。偶像
崇拝を禁じているために、イスラム世界では幾何学模様と花模様が洗練されたといい
ます。宗教建築であるモスクや、廟の装飾にも、コーランの文字のほかに幾何学模様
や草花の模様が多く見られます。絨毯に描かれる草花も、そうした文化の中から生ま
れているのでしょう。絨毯に見る草花は、やさしい線で描かれています。植物で染め
た糸は、草花の模様に最もふさわしい色を持っているのかもしれません。

 好きでたまらない絹の絨毯ですが、敷くに足るお屋敷を持っていません。でも、や
むにやまれぬ衝動に負けて、玄関マット大のものを2回買ってしまいました。このく
らいの大きさのものならば、勢いで奮発できるくらいの値段です。1度はパキスタン
で、もう1度はインドで。どちらもカシミール、インドとパキスタンの間で領有権が
争われているイスラム教徒の多い地域でつくられたものです。

 千年以上も受け継がれてきた手仕事で作られた絨毯を見ると、今の世界のことも思
います。今、この時にも絨毯を織っている人たちがいて、私たちと同じように家族や
友人を思って暮らしている人たちがいるのだと。いかなる国でも戦争は起きてほしく
ありません。


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◆プロフィール 「 宇佐木やよい 」 フラワージャーナリストという肩書きも持っているフリーライター。 花については共同通信でずっと書いているほか、生け花関連誌、園芸誌などでも執筆。
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