| 第十二回 |
◆ヤシの葉の快楽 島の記憶 |
2/9/2003 |
怠惰な性格のため、暑くなるとどこかの浜辺に寝そべる毎日を夢想します。そこには、風に揺れるヤシの葉がなければいけません。そんなふうに思うようになったのは、カリブ海の島、グアドループで1週間を過ごしてからです。
グアドループは小アンチル諸島のまんなかあたりに位置し、フランスの海外県の一つとなっている島です。現在は植民地ではなくて、フランス本土と同じ法律が適用されている、まさにフランスなのですけれど、もちろん以前は植民地だったわけです。赤道のちょっと北で、一年を通じて平均気温は25度前後です。
私が訪れたのは2月だったのですが、フランスからは避寒の観光客がけっこう来ていて、浜辺にはトップレスのおばさまとかいっぱいいました。その迫力と申しましょうか、なんと申しましょうか、中には白いトドのような方もいらっしゃいました。
その浜辺に終日ぼけーっと寝転がっていると、青い空とぽつぽつ浮かぶ白い雲と、けっこう強い風になびくヤシの葉だけが見えます。日の光を浴びて光るヤシの葉は、風にゆさぶられながらきらきらときれいで、風の強さや向きがちょっと変わるだけで、ヤシの葉の表情も変わっていきます。なんだか、いいなあと思って、すっかりヤシの葉が好きになりました。あの細い葉の美しさを、初めて感じることができた経験だったと思っています。
グアドループには、日本で観葉植物として流通しているドラセナやクロトンなども
そこらへんに当たり前の顔をして生えています。ブーゲンビリアもハイビスカスも咲
いているし、植民地時代からのサトウキビ畑もあります。市場に行けば見たこともない果物が、山となっています。
でも、なぜかヤシの葉っぱが一番きれいな植物として印象に残っているのです。あれ以来、赤道に近い所、特に海辺に行くと、ついついヤシの木を探します。そうしてみると、ヤシの木も実にさまざまで、石のように堅そうで白っぽい幹を天に届けとい
わんばかりに伸ばしているものもあれば、たおやかな風情のヤシもあります。どんなものでも、ヤシの木を見ると、無性に嬉しくなるのです。それは、ヤシの木陰に寝そべる快楽を思うからかもしれません。ただヤシの木があるだけでなく、青々と高い空と、葉を揺らす風も一緒でなければ、快楽にはなりませんけれど。
排気ガスと空調の排気とアスファルトの輻射熱のために巨大で不快な蒸し風呂状態
になっている都市の夏、むっとした不自然な熱気に眠りを妨げられる夜など、ヤシの葉の揺れる様を思い浮かべては、その木陰に恋いこがれてしまいます。
|
|