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HANA見てある記    by 宇佐木やよい




第二十五回 「チューリップの記憶」 2004/04/6



 前回に続いてチューリップの話で恐縮ですけれど、とても印象に残っているチューリップの姿があります。

 90年代の半ば、パリの花市場を訪れました。パリ郊外のランジスには、東京の太田市場と同じように、生鮮食品の市場と一緒に花市場があります。当時は、花市場はまだ古めかしい市場でした。仲卸のおじさんが、ここは50年前と同じだよ、なんて半分冗談めかしてそのへんに転がっているバスケットを指して言いました。すると、別のおじさんは、トラックだって50年前と同じさ、なんて言って、みんなで笑っています。古いフランス映画のワンシーンみたいでした。


 4月末のこと、チューリップはもうシーズンが終わろうという時です。その日、市場で見たチューリップは、球根ごと収穫されたものでした。それが、なんともいえず自然な感じで、ほっとするような姿だったと記憶しています。


 どういうわけか、ガーベラなどは花首だけが見えるような化粧箱に入っていて、とても人工的な感じがしました。最初は、生の切り花には見えなかったくらい。そのガーベラと、球根つきのチューリップが一緒に並んでいる空間が、とても不思議に思えました。


 球根つきのチューリップは、パリ近郊で栽培されているもののようでした。その後、滞在していた知人宅の近くの花屋さんで淡いピンクのチューリップを花束にしてもらったのですが、産地を尋ねたら、それもパリ近郊ということでした。花屋さんでは球根はついていませんでしたが。


 この時は、パリに行く前にオランダで球根生産地を見たのですが、滞在したホテルのエントランスには球根植物が華やかに飾られていました。こちらは、大小さまざまな鉢をピラミッドのように重ねてあり、てっきり球根から育てた鉢植えだと思ったのですが、実は鉢を花器にしてつくったアレンジメントでした。


 まるで鉢植えのような切り花と、切り花になる前に球根付きで市場に並ぶ花と、奇妙な対照を見たことになります。どちらのチューリップも、きれいでした。


 子どもの頃に庭先にあったチューリップは赤、白、黄色と歌の通りだったことも思い出します。今更ながらに、チューリップという植物の独特の花、葉形、質感、多彩な色を思うと、世界中で愛される花である理由がわかるような気がします。そして、何よりも、春を告げる花だということにその魅力があるのではないかとも思うのです。通年栽培される花が増えている中で、季節感を強く感じさせる花は、一層、人を惹きつけるのでしょう。


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◆プロフィール 「 宇佐木やよい 」 フラワージャーナリストという肩書きも持っているフリーライター。 花については共同通信でずっと書いているほか、生け花関連誌、園芸誌などでも執筆。
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